2020年5月にNHKで放送されたダーウィンが来た!「屋久島 伝説の超巨大杉」で七尋杉を知り屋久島へ飛ぶことを決めた。
NHKが総力を挙げ、飛行機からレーダーで解析をしたりする様子を「すごい巨木が発見されてしまうかも」と不安と期待が入り混じった感情で見ていた。その番組で天空杉と七尋杉と名づけられた巨木の存在を知ることとなる。
今まで何度も訪れている屋久島。地図を広げ等高線を眺めては巨木のありそうな地形にあたりをつけ登山道をはずれ捜す。そんな当たり前というかアナログなやり方で縄文杉以上の日本一の巨木をあると信じ捜し続けている。
未だ見ぬ巨木捜しと七尋杉を合わせて捜してしまおうというのが今回の旅。七尋杉の場所は非公開だったが、的は絞れていたので発見できると考え、数日時間を少しとることにした。
1人で行く予定だったが、友人隆通とロッジの店主トシとの話の中で一緒にいくという流れになり3人で入山することになった。
七尋杉を捜す時間は2日間として食料を詰め込み、辺りが暗いうちにロッジを出て荒川登山道に立った。
うっすらと辺りが青く染まってくる中、トロッコ道を歩き等高線が緩やかですぐに尾根に出れそうなルートを捜す。
しばらくし見つけた場所は、いかにも屋久島らしい苔が一面に生い茂る「もののけの森」のような雰囲気。ただ小さな小川が流れ足元は悪い。いきなり靴がぐしょぐしょになるのはよろしくない。というより嫌だ。少し戻り急勾配だが尾根に出やすい最短ルートを登ることにした。木々を掴まないと登れないような勾配に、隆通は早々に息が上がりばてている。1.5時間くらい登り少し開けた場所をみつけベースキャンプを張ることにした。隆通はこの時点で自分が足手まといになると判断しベースキャンプで待っているという。自称ベースキャンパーの誕生だ。
当然、登山道のない山は荒行だ。ひたすら藪をかき分け等高線を読んでひたすら歩く厳しいもの。そしてその先には登頂の達成感もなく巨木もないような場合も当然のようにある。同行を強要せず2人で進むことにした。
まずは山の地形を把握し、どのあたりに巨木が出るか考え進む。長年巨木を追ってきた経験を信じるしかない。
尾根を藪をかき分けながら歩き注意深く周囲を見渡す。尾根歩きというと見晴らしが良く風が快適。そんなイメージもあるかもしれないが、実際はそうはいかず、登山道がないと木々や藪が行く手を邪魔しする。
山頂を越え、堆積する落ち葉を滑るように下るも予想した座標には巨木の気配はなかった。
次のポイントに向かう
伐採された巨木の切り株など明らかに巨木の片鱗がある。
どれも伐採されていなければ、見事な巨木だったに違いない。
屋久島は400年程前から伐採が始まり、ほとんどの巨木を切り倒し年貢やお金に変え生活していた。1590年頃、京都の都方広寺大仏殿造営のための屋久杉材を大坂へ運んだという話は有名だ。ウィルソン株も豊臣秀吉が命じて切らせたという。過去のことだから何ともならないのはわかっていても大きな切り株を見るたびに胸が痛む。
早朝から15時くらいまで歩き続けた。日が落ちる前にはベースキャンプへ戻らないといけない。山頂へ戻りベースキャンプへ下る。1日に2回も山頂に着くとは貴重な経験だ。ベースキャンプでは夜は遅くまで3人で1日の山での話に花を咲かせた。
2日目
早朝、朝食を済ませ、昨日の巨木切り株地域へ向かう。
昨日とは少しルートを変え急斜面を降りていると現れた根上がりの大きな切り株。
土が流れて根上がりになったと思われる巨大な根っこ。
根の下は人が通れるくらいの大きさがある。
昨日の巨木切り株のあったポイントを重点的にまわる。
見落とさないようにローラー作戦で歩いていくと・・・
超巨大な巨木が目の前に現れる!「デカい!デカいぞ!」テンションが上がる。
巨木の切株の上に芽を出し、根を張り、末広がりに根を伸ばし、この形になったようだ。
この名もなき木を「末広杉」と命名
末広がりは縁起がいいとされる。きっとこの木をみつけた人には福が訪れるに違いない。
こうして伐採されず立っている木は400年以内の樹齢
この地域だけでも数日撮影したいと思うほど見事な巨木をたくさんみつけることができた。この巨木も相当な幹周をしている。次回はメジャーで測りたい。
屋久島の木々は倒木しても何度も新しい芽が出て再生する森がある。倒れたら終わりではない自然の循環が素晴らしい。
切り株から斜めに力強く伸びる木。二本が根元で融合した合体木か?それとも一つの木だったのか?いずれにしても幹周10mを越える巨木だったことは間違いないだろう。
屋久島でしか見れない樹形の巨木。
真っすぐ伸びる木は切り株に根付いた二代目と見て間違いないだろう。
数百年で後ろの巨木のような姿になるのだろう。
普通に森を歩いているだけで、屋久島を実感する。苔で覆われた美しい切り株、少しオドロオドロしい巨木。綺麗な川、虫の声、ありのままの自然。
朽ちた巨木、切り株、若い巨木はみつかるも七尋杉は発見できない。
気がつくと時間だけが過ぎ、15時になっていた。
最後の望みを捨てず帰りながら捜すことにしたが、巨木の気配が消え遠ざかっている感覚が襲う。
「出会えないのか?みつらないのか?」気持ちが焦る。
足を止め川の岩場でタバコに火をつけた。
焦った時は冷静さを失い怪我をすることがある。
タバコを吸い地図を見てリラックスして考えることにした。
2日間歩き続け、気になる箇所はまわり尽くしているように思えていた。
指で地図をなぞり考え、ふと目線を地図から外した。その瞬間閃いた!
「あの崖を登った場所は調べていない!」
時間的にも最後のチャンスだ。1人で行くことをトシくんに伝えカメラだけ持ち崖を足早に登る。
登りきると少し開けた台地のような地形に出た。焦る気持ちを落ち着かせながら森を小走りで見てまわる。
巨木の気配を感じる。視界の木々に大きいものが混じってきた。
頼む!七尋杉!頼む!出てくれ!
と祈りながら進む
目の前に大きな木が現れた。
鮮やかな緑の葉を貫く幹。そこから射し込む光。幾重にも重なった根。
まさか・・・七尋杉? 広大な山の中で見つけることができたのか?
幹とも根ともわからない大きく開いた口に入る。
先っきまでの焦って小走りになっていたのが嘘みたいに、ゆっくりとじっくりと見わたしていた。
空洞化した幹の中は、12畳ほどの大きさ。堆積したおが粉。鼻を抜ける樹木の香り
反対側に抜けてみる。
そこには3体が合体した見たことのない樹形の巨木の姿!
大きく深呼吸し拳を突き上げた。
七尋杉発見!!!!!!
2日間、山を歩きまわり最後の最後で発見できた喜び
「良かった。見つけることができた。考えて良かった。最高やな。嬉しい。」
いろんな感情が湧き出て感極まるものがある。
道を忘れないように覚えつつ、川で待つトシくんの元へ駆け足で戻る。
「トシくん!七尋杉ついにみつけたよ!行こう!」
こうして七尋杉をトシくんも見ることができ、とても喜んでくれた。
2人で万歳記念撮影をして、様々な角度から見て名残惜しかったが下山することにした。
2人とも疲れているはずだが下山する足取りは軽かった。
屋久島 冒険記は続く